痴漢対策としての安全ピンの推奨に「反対」します


読者の皆さん、こんにちは。バーチャルブロガーのコトハです!

電車内での痴漢に対して「安全ピンを刺して反撃する」というソリューションが提示され、その是非がSNSを賑わせています。

これに対して今回わたしの所感をまとめましたので、ぜひお付き合いいただければと思います。

こんなのにすら「是」の票が一定数集まることに呆れてしまいますが……まあ、とりあえず見ていきましょうか。

1.痴漢対策としての安全ピンは「全くおすすめできない」

結論としては「やめましょうね」の一言に尽きます

理由はシンプル。正当性を欠くばかりか有効ですらないからです。

以下、その理由を説明していきます。

安全ピン等の道具で他人の手を攻撃することの正当性、それが痴漢に対してどれほど効果を持ちうるかという有効性の2点に分けて考察しますよ。

2.正当性の欠如

2-1.正当防衛を取れる状況は限定される

第一の論点は、痴漢に対して安全ピンで反撃を行うのは正当防衛ではないか? ということ。

安全ピン等によって相手を攻撃した場合、暴行罪もしくは傷害罪の構成要件を満たします。このとき正当防衛で違法性が阻却されれば罪に問われることはないわけですが、では実際に正当防衛を取れるのでしょうか。

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

――刑法第36条1項

条文を見ればわかるとおり、正当防衛と認められるために必要な要件は「急迫不正の侵害に対するものであること」「自己または他人の権利を防衛するためのものであること」「やむを得ずにした行為であること」。厳密にはもっと細かく分けることもできますが、まあ大まかに3つと言って差し支えないでしょう。

このうち「自己または他人の権利を防衛するため」の部分は問題なく該当します。

気になるのは「急迫不正の侵害」と言えるか。「不正」については問題なくクリアできるとして、あとは急迫性の部分ですね。

急迫性とは要するに「今まさに侵害が発生していること」の意味。今回のケースで言えば「今まさに体に触れられている」ことが絶対条件であって、「痴漢をしてきそうな人を先制攻撃する」のはもちろん論外、「手が離れた後に攻撃する」のもアウトということです。

また、場合によっては積極的加害意思を認められてしまうことも考えられます。積極的加害意思とは「侵害をきっかけとして相手を積極的に加害しようという意思」、簡単に言えば「やられたらやり返す」のは正当防衛とは認められないということですね。

あらかじめ安全ピンを反撃用に準備しておく、となるとこの点が少々怪しくなってきます。侵害の予測+加害意思が見事に揃ってしまっていますからね。

たまたま持っていたアクセサリに安全ピンがついていた……みたいなケースなら正当防衛が認められやすいとは思いますが、それを取り出す動きは痴漢だって察知するでしょうから、刺そうとしたときには離れてる可能性が高いんじゃないかなあ……。

さらに言えば、「やむを得ずにした行為であること」には相当性の観点が含まれていることにも注意が必要。防衛行為は侵害行為の強さに釣り合うものではなくてはならないという意味です。つついて追い払う程度ならともかく、傷が残るくらいブッスリいってしまうと正当防衛と認められず、過剰防衛となってしまうおそれがあります。

2-2.無関係な人に危害を加えてしまうおそれがある

もう一つ大きな問題は、揺れる電車の中で無関係な他人を巻き込まずに済むのかという点。

こちらがどんなに気をつけていたところで、他の乗客のほうからバランスを崩すなどして寄りかかってくる可能性は常にあります。そのとき手に安全ピン等を所持していたら、意図せずとも危害を加えてしまうことになりかねません。過失傷害ですよね。

また、痴漢が発生するのは満員電車やそれに近い状態でしょうから、犯人を刺したつもりで別の人を刺してしまう、という人違いのリスクもつきまといます。この場合は誤想防衛ですから、暴行や傷害の違法性が阻却されることはありません。

というかこんなこといちいち論じるまでもなく「相手が犯罪者であるからといって私的制裁を行ってはならない」んですけどね。法治の大前提すら共有できない人が少なからず存在することには危惧を抱かざるを得ません。

3.有効性への疑問

3-1.そもそも使えるんですか?

根本的なところから行きましょうか。

電車に乗っていて、安全ピンを持っていたとしましょう。不運にも痴漢に遭遇してしまったとします。そして勇気が出ないなどの理由で声を上げることも難しかったとしますよね。

安全ピン、使えますか?

他人に攻撃を加える心理的なハードルってただでさえ高いですよね。

さらに、大抵の痴漢は自分より弱そうな相手を狙うであろうことを考慮すると、被害者の視点に立てば「自分よりも体格の良い相手に加害されている」状況ということになります。……反撃したらよけい手酷い目に遭わされるんじゃないかって考え、よぎりません?

いま安全ピンの携行を声高に叫んでいる方の中で、実際その機会が訪れてしまったときに実行に移せる人が果たして何割いるか疑問です。あえて俗な言い方をしますけど、SNSでイキったところで何も解決しませんよ。

3-2.痴漢に対して効果があるか?

心理的なハードルをクリアして、安全ピンで痴漢の手をつつくことに成功したとしましょう。

……さて。

チクッとやった程度で痴漢が怯むと思いますか?

安全ピンで牽制・反撃を試みた場合、声を上げて周囲に助けを求める意思がないと見なされるおそれがあります。その意思があるならそもそも安全ピンいらないんですからね。被害の発覚を恐れて沈黙を選んだものと考えられても不思議ではない。

となれば、痴漢の抑止にならないどころか状況しだいでは行為がエスカレートする危険性すら伴いますよね。発覚しないっていうのはそういうことです。

痴漢行為が犯罪であるというのは一般的に浸透した常識であり、痴漢に及ぶ人間というのはそれを知っていながら実行に移す、言わばタガの外れた人たちであるということは頭に入れておくべきでしょう。そんな人たちに対して無言でささやかな抵抗をすることが本当に有効なのかどうか、よく考えてみることをおすすめします。

3-3.捕まえられないと再発を防げない

仮に安全ピンによる反撃が運良く奏功し、痴漢を撃退できたとしましょう。

その痴漢、捕まえられないですよね。撃退しちゃったんだから。

ってことは、再発しますよね。犯人捕まってないんだから。

安心して電車に乗るためには痴漢の撲滅が必要であり、そのためには「痴漢行為に及んだ者を逮捕していく」ことが必須です。発覚しなければ逮捕もなにもできないんですから、事実上の沈黙の推奨を肯定することはできません。

4.被害者のためを思っているのは誰か?

で、今回の騒動でわたしが一番許せないのはここなんですけどね?

安全ピン等による威嚇や反撃を推奨している方々、上に列挙したリスクを説明していないばかりか、説明しようとする人の口を塞ぎにかかってますよね?

真に受けた人が実行して、よりトラブルが深刻になっても一切責任なんか取りませんよね?

わたしも最終的にはアドバイスを聞くも聞かないも本人の責任だと考えますけど、それはきっちりリスクまで含めて充分な説明をした場合の話。うまくいかなかったときに被るであろう不利益を隠して行動を唆すなんてのは助言じゃなくて煽動です。

焚きつけるだけ焚きつけておいて後は知らんぷり……なんて不誠実なことを平然と行う人間に、被害者の味方面をする資格なんてありません。

5.共感を求めるよりも解決の手段を広めましょう

まあね、正直な話、本当のところは想像ついてるんですよ。

安全ピン等での威嚇・反撃論に乗った方、問題を解決するつもりで言ってるんじゃなくて、共感が欲しいだけでしょう?

わたしが上で挙げたような論点はSNSでも再三にわたって出ていました。問題を解決する気があるならこういった指摘を避けて通ることはできないはずなのですが、寄せられる客観的な意見に対して、安全ピン推奨派は「痴漢の肩を持つのか!」とヒステリックに反発するばかり。

わたしはこれを「自分たちの気持ちに寄り添ってくれない」という反発だと理解しました。もちろん「自分たち」というのも一枚岩ではなく、「気持ち」というのが過去に痴漢被害に遭ったことからくる処罰感情なのか、これから痴漢被害に遭うかもしれないという不安なのか、それとも別の何かなのかは人それぞれで異なるのでしょうけど。

いずれにせよ、どんなに耳触りがよくても共感は共感の域を出ません。問題を根本から解決するには正しいアプローチが必要です。つまり、周囲の乗客に助けを求めることですね。

――平成27年版 犯罪白書 第6編

毎年3,000件以上の痴漢や強制わいせつが検挙されていますが、これはもちろん安全ピンの功績などではなくて、犯罪行為が発覚したからですよね。

安全ピンなんかよりも防犯ブザーを持ちましょう。

最近は電車内を想定した防犯ブザーや警視庁公認の防犯アプリも出ていますから、選択肢には困らないはずですよ。


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